職業レポート⑦:市民開発者の育成にご尽力されている「ITの町医者さん」りなたむさんの講義

隅田です。
前回に引き続き第7回目の職業レポートです。

今回、授業していただいたのは「ITの町医者さん」こと、りなたむ さんです。

自身、101期に在籍していた頃も授業していただきましたし、JPAUG広島 報告会#1で登壇した時も助言をいただきました。また、卒業してからは、継続学習コミュニティにもお越しいただき、アプリ作成において躓いているポイントをハンズオン形式で助言していただきました。

この度は、市民開発者として学習を続ける103期生にも「なぜ市民開発者が必要とされているのか」や「どういう人が市民開発者なのか」ということを講義していただきました。

りなたむさんについて

りなたむさんは、通称「ITの町医者」としてMicrosoft製品の導入や市民開発者の創出支援事業に従事されています。

起きている間ずっと仕事をされているイメージなのですが、これほどご多忙の中であっても Microsoft MVP をビジネスアプリケーションの分野で2020年から受賞を継続されています。

また、執筆活動、動画配信、そしてコミュニティ活動にも精力的で、多岐に渡ってご活躍中です。記事の末尾に、添付いたしました。是非ご覧ください。

授業内容:市民開発者への道

なぜ市民開発者が必要なのか

なぜ、これほどにまで市民開発者という言葉が叫ばれているのでしょうか。

その理由は、生産年齢人口(15歳~65歳未満の人口)の減少が問題点として取り上げられているからです。

従来は、就業可能な人員を多く確保することができてました。言い換えると、それぞれの業務に対して人員を割り当て、業務を遂行していくスタイルでした。

しかし、少子高齢化などによる影響で、2025年では2015年と比べて1000万人減少、2045年では2000万人減少…と、人材確保が年々困難になっていくことが予想されます。

人員の確保が難しいことから(これまでの業務量を捌くだけでも)一人あたりの業務効率を向上する必要が出てきました。

また、年々、日本は「世界競争力」が低下しています。ビジネス効率性においては(他国が向上しているのもあって)顕著で、63カ国中46位(2019年)と低く、このままだとビジネスが成立しなくなる可能性が出始めています。

以上の観点から、定型的な作業は自動化するといった対策の必要性が俎上に載せられました。

さらに、業務スピードを向上させるためにデータを活用していく必要もあります。例えば、全社横断的データを活用することにより、ある部署と別の部署を連絡できるようにもなりますし、機械学習モデルを構築するなどして業務予測を行うこともできます。

しかし、多くの企業では既存システムを部署ごとに構築していることが多く、全社横断的なデータ活用もあまりできておらず、それに加えて大幅なカスタマイズがITベンダーを経て行われていることから、複雑化・ブラックボックス化しているようです。これを改善しようとすると莫大な費用が発生することでしょう。

出典:総務省│令和3年版 情報通信白書

こういった問題を解決したくても、デジタル人材が少ない日本ではかなり難しいと考えられます。デジタル化人材においては、日本はランクをかなり下げており、競争力の向上に向けた様々な背作を講ずるためにもデジタル人材を多く創出する必要があります。


そこで考えられたのが「専門事項のみを依頼することで開発効率をあげる」ということでした。高度な技術は専門家に依頼し、自分たちでできることは自分たちで解決していくという発想です。プロ開発者と市民開発者の役割を定義し、それぞれが得意分野とすることを専任して進める必要性が叫ばれているのです。

市民開発者ってどういう人?

市民開発者とは、ビジネスにおいて最も効果的なシステムを提案し、開発を行っていく人を指します。決して、プロ開発者の簡易版でもなければ「ローコードで開発する人」でもありません。

ローコードはあくまでも手段に過ぎないということがポイントです。市民開発者が「ビジネスに最適なシステムを作り上げていくのに、プログラミングが壁となるためローコード開発ツールが生まれ、学習コストが比較的低くなった」という点が「ローコードで開発する人」と誤解されているのです。

市民開発者が、プロの開発者よりもビジネスに近いからこそ考えることはたくさんあります。業務課題から画面設計、データ設計、運用設計といった、プロ開発者も時間を要する仕事に取り組まなければなりません。

市民開発者は、プロの開発者よりも業務に親しい存在であるという意味において、非常に大変な地位に立っているといえます。「まずは自らの変革を」の言葉が印象的でした。並々ならぬ努力は必要ですが、とてもやりがいのある仕事ですね。

Fusion Team開発

Fusion Team開発とは「プロと市民開発者が手を組んで行う開発」のことを言います。ここで重要になってくるのは、どのような形式に連携して欲しいのかを考えることです。

共通認識として最も使用されやすいのが、”API” である…と、りなたむさんは述べます 1。この “API” を策定する上で、何をしたいのか、どんなデータが欲しいのかを明示することが大切です。

そのためには、この “API” が何なのかを学習しておく必要があります。詳細はりなたむさんが作成された『Microsoft Graph APIってなに?』というスライドをご覧ください。

Pay it Forward:恩送り

彼は、仕事を通して他者を幸せにすること、ものづくりを楽しむこと、受けた恩は別の人に渡すこと、自分の行動一つが回りまわって影響するかもしれないと考える、といったことなどを心がけておられます。

ご経歴

数々の仕事をされている中で「転換期」と捉えられるご経験をされていますが、いずれの地点においても、作ることを楽しんでおられます。作ったり試したことなど、様々なことを自分だけに留めておくのではなく、様々な形で発信し、フィードバックをもらいながら取り組んでおられます。

中古パソコンでサーバー構築したり、Power Appsではスピードメーターを作ってみたり、ラジコン操作できるようにしてみたり…と、会社に求められるからやるのではなく、自分の価値は自分の意志で高めるようにされています。

先行きが不透明で、将来の予測が困難な「VUCA時代 2」を生きる我々にとっては、彼の価値観は参考になるように思いました。

Q&Aについて

最後に、質疑応答の時間についても有益なお話をしていただきました。

曰く、Q&Aは「参加者が発表者になる時間」とのことで、より具体的に言うと、発表者から学んだ知識や技術を参加者のみなさんがきちんと習得したかどうかを確認する時間のことであるとのことです。発表者と参加者は全く異なる人間なので、かならず疑問点が浮かび上がってくるはずです。

また、質問することによって会場を盛り上げることが大事であるともおっしゃっていました。質問が多くあれば、それだけそのイベントが盛り上がります。恩返ししたい気持ちがあるなら積極的に質問するようにし、発表者を喜ばせましょう…と、助言を賜りました。

103期生も安心したためか、色々と質問を投げかける様子が伺えました。私たちで後進者教育に従事できるくらいにまでスキルを磨いておく…という言葉が印象に残っています。

りなたむ

市民開発者は広島だとまだ難しいかもしれませんが、長期的に見て、これから需要はどんどん増えてくると思います。皆さんはその先駆者としてのアドバンテージはあるので、引き続きがんばってください!

※アイコン画:おーちょさん

いつも本当にありがとうございます。今後ともビットゼミをよろしくお願いします。

資料

  1. APIとは、「Application Programming Interface(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)」の頭文字を取った略語のことで、「機能を公開しているソフトウェア」と「その機能を使いたいソフトウェア」をつなげる窓口のようなものです。
  2. 変動性 (Volatility)、不確実性 (Uncertainty)、複雑性 (Complexity)、曖昧生 (Ambiguity) の頭文字を取ったもの
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